「逝きし世の面影」という本がある。
ここには西洋人の目で見た幕末から明治初期にかけての日本、日本人が様々な
形で語られている。あるは条約を結ぶため、あるは明治政府の要請で多くの西洋
人が日本を訪れ、この国の風土に、この国の人々に魅了された。
中には辛口批評もあるが、なべて好意的で、同じ日本人である私ですら、その時
代に行ってみたい気になる。
彼等によると、私達の御先祖様は親切で陽気、ユーモアがあり天真爛漫、楽天的
で開放的、優しくてお人好し、慎み深くて倫理的、礼儀正しく穏やか、従順でがま
ん強く、快活で遊び好き、温厚、正直、質素、とおおよそ人に与え得る限りの賛辞
を浴びせている。
その描写、説明から想像される当時の日本人は、現代人よりはるかに人生を楽し
く生きていたということである。
現に何人もの西洋人が、日本ほど幸せな人々はいないし、日本ほど美しい国はな
いと言っている。
それも支配階級である武士よりも庶民の方が生き生きしている。優秀な官僚であっ
た武士(中にはボンクラもいただろうが)は武士道を拠り所として質素に生き、つい
たての向こうで庶民は思いきり羽を広げて生きていたようなのである。
武士と庶民の階級差別は歴然とあったが、大方の庶民はそれを当り前のこととして
受け入れ、オレ達はオレで気楽にいこうという態度だった。
その圧倒的楽天主義は、生活まるごと笑いの揺りカゴにしていた。
江戸の農村においても、私達が歴史の時間に教えられたような悲惨な農民生活と
いう情景はあまり一般的ではなく、農民達もそれなりに生活をエンジョイしていたよ
うである。
*** つづく ***