―初めての市場出荷―
生産物は最初の頃は、妻が自転車の後に積んで、近所の住宅を回り、売り歩
いてくれた。しかし収穫物が多くなって、とてもそれでは追いつかなくなり、市場
出荷を考えなくてはならなくなってきた。
忘れもしない初めて出荷した時のことである。キュウリを四つのクラスに分けた
のだが、出荷するには、上物ばかりの方がいいと思い、小売用に一番下のクラス
を残し、上の方を秀、優、良と分けて出荷した。初めてプロの仲間入りをしたという
意識で、次の日、仕切りのお金をもらう時、胸がふくらんだが、その額を見てペチャ
ンコになった。
今でもはっきり覚えているが、秀が十二円、優が八円、良が一円だった。その上、
手数料プラスαで、そこからまだ一割引かれる。因みに四番目のランクのは、一
本十五円の小売りで全て売り切れたのである。
それからも懲りずにトマト、キャベツ、水菜、レタス等を出荷したが、やればやる
程馬鹿馬鹿しくなって、これはもう自分で小売するより他はないという結論に達した。
市場という所は荷を確保するため、大型産地のものや、常連農家の品物にはそ
こそこの値をつけるが、たまにしか持っていかない農家のものはいくら新鮮な地場
野菜であっても買いたたかれる運命にある。
その一方で、市場はとにかくいい品(見映え)を持ってこいという。市場の手数料は
八・五パーセントと決まっているので、商品価値の高いものを扱わねば儲からない
のだ。その結果、農家は生産量を上げるより、秀品率を高めることにより労力をさく。
そのために使わなくてもいい農薬を使ったり、大きさを無理に揃えたり、余計なシー
ルを張ったり包装したり、どうでもいいことにびっくりする程の手間をかけるのである。
つづく