暮にモチつきをした。といっても毎年やっていることだが、今年は特に出会いの里に縁のあるIター
ン家族にも呼びかけて、にぎやかなもちつきになった。おととしの大水害の後遺症で去年は水田の作
付けができず、モチ米などあろうはずがなかったのだが、全国農家の会の仲間が、わざわざ二斗も送
ってくれた。その友情に報いるためにも、みんなにふるまおうと思った次第である。
天気が怪しいので、昼迄に終わりたいということで、朝六時過ぎにカマドに火を入れる。八時には
準備万端整うが、まだ誰も姿を見せない。里の身内で三うす、四うすつくうちにみんな集まり始め、
赤ん坊や子供の声に混じってペッタン、ペッタンが花やかになってきた。ああ、これで正月が来るん
だという気持になってくる。杵の音は派手な方がよい。その音に乗って福がまよいこんでくる。
でも熊野には釜モチというのがある。陰気なもちつきである。熊野は右を向いても左を見ても山の
国。稲の作れる耕地なんて文字通り猫の額である。米などハレの日に拝めるぐらいだったろうし、ま
してやモチにおいてをや。それが何かの拍子に手に入ったのだろう。本当はお隣さんに分けてあげた
いのだが、とてもそんな余裕はない。それならお隣さんに知られないように静かにこっそりと。それ
に杵でつく程の量もない。ふかした釜のモチ米をそのままスリコギでつついているうちにモチになる
だろう。釜モチはちょっぴり悲しい物語を背負ったまだ飯粒の残る半づきのモチなのだ。
そんな熊野の昔に比べ、この開放的なにぎやかさはどうだ。女の子達もぎこちない身振りで杵を振
り下ろす。
白モチばかりでなく、豆、ゴマ、ノリ、エビ、みそくるみ、アンコと、釜モチ組が見たら目を回す
ような豪華版。さあつき終わったら隣近所におすそ分けしよう。