寒風の中で毎日ニンジンを収穫している。一畝二条播きだが、一条はよく出来ているのに、もう一条
は全くダメというのがある。原因は大水害で肥えた土が流され、主に土の物理的条件が劣化したこと
だとうと思っていた。ところが最近読んだ農業書に「里芋の跡にニンジンは絶対作ってはいけない」
と書いてあるではないか。四十年百姓していても知らないことは沢山ある。まさに昨年里芋を作付け
した跡にニンジンを播いたのだ。里芋はサトイモ科、ニンジンはセリ科、この二つの作物の相性の悪
さは、どういう科学的根拠があるのか知らないが、経験的にそうだということなのだろう。しかし
まぁその割には全体としてよく出来ている。
畑に掘った井戸の水でべっとり土のついたニンジンを洗う。外気温が低い程、井戸水は暖かく感じ
られる。こごえる指先が水であたたまる。風がない時は冬の陽射しが心地よい。ニンジンの朱色が陽
に映えて、美しく輝いている。一本一本丁寧に洗う。
「このニンジンを食べる人に幸いあれ」と思う。誰が食べてくれるか知らないが、指先にこめられ
たこの思いは、食べる人に確実に伝わっていくと信じている。「ボカァ(僕は)幸せだなぁ」。加山
雄三じゃないけど、そんな台詞を決めたくなる。頭の上でトンビが鳴いた。この寒空を舞っている。
よき一日、よき百姓人生。